林ゆりえ×渡辺恭子 対談〈前半〉
先日、ダンサー引退のお知らせをした林ゆりえ。
同じ役を踊ったり楽屋が一緒であったりと共に多くの時間を過ごしてきた渡辺恭子との、対談(おしゃべり?)ブログをお届けします。
これまでのダンサー人生を振り返るとともに、SDBスクール教師として今後の課題など、様々なことをざっくばらんに話してもらいました。
渡辺 ゆりえちゃんはどうしてバレエを始めたの?
林 3歳の時によく遊んでいたお姉さんがバレエを習っていて、そのお姉さんと一緒にいたくてついて行ったのが最初かな。
渡辺 そうなんだ。私はお母さん。母は小さい頃バレエを習いたかったけど習わせてもらえなかったみたいで、私にはやらせたいと思っていたそう。連れていってもらった発表会で踊っているお友達を見て、すぐに「私も!」ってなったらしいよ。
SDBのスクールに入ったきっかけは?
林 小学校の時に習っていたお教室で夏期講習があって、その先生が稔先生(編集者注:常任振付家 鈴木稔)だったの。毎年夏になると受けていたけど、私が大阪に引っ越してその講習会には出られなくなってしまって。
でもまた東京に戻ってきたときに、SDBスクールに通うって決めたの。
渡辺 稔先生とそんな小さいときから出会っていたんだ!
私はローザンヌ国際バレエコンクールに出たときに、SDBスクール卒業生でもあり元SDBダンサーの鈴木美波ちゃんと来ていた恵美先生(注:バレエミストレス 小山恵美)にお会いして。そのときに美波ちゃんがお願いしてくれて、当時フランスに住んでた私が一時帰国したときにSDBスクールの恵美先生のジュニアクラスを受けさせてもらったことがあって。
まさか将来入団するとは当時想像していなかったけど、レッスンが楽しかった記憶はあるよ。それからも帰国したときには朝のオープンクラスを受けたりしていたよ。
渡辺 私がSDBに入団したときからゆりえちゃんはすでにプリンシパルとして大活躍していたから、もうそのまま“プリンシパル”っていうのが正直な印象なのだけど、とにかく良い筋肉と素晴らしい身体の持ち主だな~って思っていたかな。
だから、考えて踊るタイプより結構運動神経で踊るというか、それで踊れてしまうタイプだろうなって。
そしたら、とんでもない・・・想像よりもずっとストイックで、すごく考えて踊っているダンサーなんだって後から分かって。役に対する解釈もこうやって深めていくんだって、ゆりえちゃんを見ててとても勉強になった。
林 私の恭子ちゃんの印象は、見た目はホワッとしてて可愛い子。で、足が凄く綺麗だな~って。
でも私たち最初はあんまり話してなかったよね?きっと見た目より気は強いんじゃないかと思っていたよ(笑)
渡辺 実際には・・・?
林 ブレない強さがあるよね(笑)
渡辺 ゆりえちゃんはスクール時代からバレエ団の公演に参加していたよね。
林 初めて参加したのはピーター・ライト版「ジゼル」で村娘役。そのとき、村娘の対照にいたのがリリちゃん(注:松坂理里子)で。
その後は、バレエ「ドラゴンクエスト」の中国ツアーに参加して天空の妖精を踊ったり、バランシンの「ウェスタン・シンフォニー」第4楽章のコールドも踊らせてもらったりしたよ。
渡辺 そうやってバレエ団の公演に参加していたから、ダンサーになるのは自然の流れだったのかな?
林 そうかもしれない。恭子ちゃんはいつから意識したの?
渡辺 私はバレエを続けたいと思ってただただやっていて。
もちろんその先に漠然とはバレリーナっていうのが憧れにあったからだとは思うけど、コンセルバトワールの最終学年になってオーディションのための履歴書をいざ書くっていうときに「職業として目指すんだ」とようやく自覚したかな。
林 私は最初からなる前提でいたのかな。勝手に結びつくと思っていたのかもしれない。
渡辺 スクール時代はどういう感じだったの?
林 当時はジュニアクラスとは別に少人数の強化クラスがあって、そこには草野洋介くんやいまSDBダンサーの石山沙央理ちゃんもいて。厳しかったけど、楽しかった!
私が発表会で「眠れる森の美女」の長靴を履いた猫を踊ったときの話、聞いたことある?
渡辺 笑わない猫ちゃんだったという?
林 そう。踊っているときはよいんだけど、踊らずに横に座っているときの顔が、もう心ここにあらずで(笑)
渡辺 私はプロとしてのゆりえちゃんしか見てないから、あの演技派ゆりえちゃんが?と思っちゃう。
林 先生達からの課題で、だからこその役だったんだと思う。
当時はレッスンが大好きで、できないことができるようになるのが楽しくて。でも、眉間にシワを寄せて集中して取り組んでる顔はどちらかというと怒ってる顔で(笑)
でもこの経験で演技の楽しさが分かってきて、演じることが楽しくなっていったんだ。
渡辺 SDBダンサーとして立ってきた舞台の中で、特に記憶に残っている公演はある?
林 1番って言うのは難しい!
渡辺 確かに絞るのは難しいよね。
私は2015年9月の“オール・チューダー・プログラム”かな?あんなにたくさんのチューダー作品に同時に触れて、リハーサルにも時間を費やせたし、外部からの豪華ゲストとの共演もあって。
そして何よりもSDB創立のこと、太刀川先生のことも改めて知れたのはこの公演があってだったし、感慨深い公演だったって思う。あの公演に出演できて、あの場所にいられたのは大きな経験だった。
林 チューダー作品をああやって様々なダンサーで見比べられる公演ってなかなかないよね。ダンサーによって全く違って見えるし。
実際に私も、初めて「リラの園」を踊ったときとこのオール・チューダー・プロでの「リラの園」で印象が全く違っていて、自分が成長したからなのかもしれないど、捉え方も変わっていたことに気づいたよ。
渡辺 音の聞こえ方や感じ方も変わってくるよね。でも、そこがチューダー作品の魅力のひとつな気もする。
フィクションの物語ではあるけれど、その時の自分の心情や経験を重ねて、その役がより近くて現実的な存在に感じる。掘り下げて行く場所や方向は毎回同じつもりでも、いろんな観点からどんどん違うカラーの発見があって、それによって今の自分自身にも深く向き合いながら踊れる作品だと思う。
林 うん、本当に良い経験させてもらったと思う。
渡辺 このオール・チューダー・プロでの「火の柱」のゆりえちゃんには本番鳥肌が立ったよ。チューダーがいるのかとさえ思った。見れば見るほど、作品自体に飲み込まれるように夢中になって、面白かった。ゆりえちゃんの表情も忘れられないし、最後の森のシーンが大好き。ダンサーとしては1番疲れ切ってる瞬間なんだろうけど(笑)
林 役に入り込みすぎると何をやっているのか見えなくなってしまうから、意外と冷静に、与えられた振りをきちんとやろうと思って取り組んでいたよ。
渡辺 確かに。去年ライト版「ジゼル」を踊らせてもらったときに、久美先生(注:総監督小山久美)に「あなたが悲しくなってしまってはダメ」とよく注意されて、見え方とは逆に凄く冷静な部分が大事なんだって思った。
林 そうだね。ただ「火の柱」は終わった瞬間にサーっと力が抜けていってしまって、みんなに終演後「大丈夫?」って聞かれてた(笑)
渡辺 うん、ゆりえちゃんの魂がどこかに・・って思うくらいだったよ。
話はまだまだ続きます・・・。対談の続きは〈後半〉にて。