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林ゆりえ×渡辺恭子 対談〈後半〉

林ゆりえと渡辺恭子の対談、後半です。

前半はこちら⇒林ゆりえ×渡辺恭子 対談〈前半〉


好きな作品・役

 好きな作品は、ジェローム・ロビンスの「牧神の午後」かな。それまでに踊ってきた役とは違っていて。

私が踊るのは元気な役の方が多くて、激しい踊りの方が得意だけど、これは“静”。いつもとは違う空間で、作品の中でも鏡に向かって踊るから目線の使い方も普段と違って新しい感覚だった。

装置も垂らし幕で揺れていて、不思議な心地良さがあって。公演を観て「良かった」って言ってくれた人が多かったことも嬉しかったな~。

 

牧神の午後(2013) ©A.I Co.,Ltd.

 

あと、バレエ「ドラゴンクエスト」の女戦士も好きだったな。白い衣裳を着る機会が多いから、いつもとは違うテイストの衣裳で踊るのが嬉しくて、楽しかった。

あとは「シンデレラ」の仙女も!

 

渡辺 ゆりえちゃんが仙女を踊ったときは、吉田都さんがシンデレラで、私はねずみの小さなお友達役で。

私も主役をやらせてもらうようになってからは、ゆりえちゃんとの共演はなかなか無くなってしまっていたから、すごく嬉しかった舞台。
シンデレラをお城へ送り出す時、三角形になって、シンデレラの都さん、仙女のゆりえちゃん、そして自分がいて、舞台上で思わず笑顔いっぱいになってしまったのを今でも覚えているよ。

でも、ゆりえちゃんはタイプ的には元気な役が合う気がするけど、どんな役にも豹変するから本当にすごいと思う。

 

 え~。恭子ちゃんはどんな役でも合うよね。同じ役をやっても私と全然違うから、そういう解釈もあるんだって気づくことがたくさんあった。

 

渡辺 うん。踊り方のタイプも真逆だから、私も最初ゆりえちゃんの真似をしてみたりしてたけど、それでも全然同じようには見えなくて。

それから、「シンデレラ」や「くるみ割り人形」とかゆりえちゃんに振り付けられた稔先生(編集者注:鈴木稔)の作品はたくさんあるけど、私もその役を踊らせてもらって、ゆりえちゃんだからこそこういう作品ができあがったんだなって実感する部分が結構あるよ。

 

シンデレラ(2012)©A.I Co.,Ltd.

 

 自由にやっていいって言われているところもあるけど、先生のこうしたいってものは崩さないようにしていたよ。

私が恭子ちゃんの好きな役は「コッペリア」のスワニルダかな!特に2幕のポワント捌きがすごくて、キャラに合っている(笑)

 

ピーター・ライト版「コッペリア」(2016)©A.I Co.,Ltd.

 

渡辺 東秀昭さん演じるコッペリウスとのやり取りはすごく楽しかった!ただ2幕はすごくハードだった・・・。

ゆりえちゃんの演じる役で好きなのはたくさんあるよ!特に「ジゼル」は、ずっと私の中で1番のジゼルかもしれない。狂乱のシーンと2幕最後でアルブレヒトと離れていくところは、ジゼルの想いが込められていて涙が出そうになる。

 

ピーター・ライト版「ジゼル」(2012)©A.I Co.,Ltd.

 

白鳥も本当に似合うと思う。腕と背中の動きが美しくて、いつも食い入るように見ていた。

あとは「ウェスタン・シンフォニー」第1楽章も大好き!これはゆりえちゃんそのままの明るさが全面に出ている気がする。

 

 ジゼルを最初やることになったときは「私がジゼル?」と思ったけど、実際に演じてみると、自分にない要素があるからやり甲斐があったよ。

ウェスタンは、可愛いし、楽しいし、私も大好き。私のおばあちゃんは、私がこの作品を踊るのを見てバレエが好きになったの。

 

ウェスタン・シンフォニー(2012)©A.I Co.,Ltd.

 

逆に、きつかった作品はある?

 

渡辺 私は挙げるならバランシンの「スコッチ・シンフォニー」のスコッチガール。

可愛い役なんだけど、求められることは本当にきつくて孤独。毎回戦争にいくような想いで踊っていたよ(笑)

一緒に踊る男性2人や周りのみんなと目を合わせられる瞬間がなくて、やっと誰かと目が合うのは踊り終えて、はける前に男性プリンシパルダンサーにお辞儀するときだけ。

私が踊ったときそのプリンシパルはフェデリコ(・ボネッリ)だったんだけど、フェデリコの素敵な笑顔を見れた~と思った次の瞬間には袖に入っていて、コーダも出ないからそこで終了。でもエネルギーは使い果たしていて、袖の中でも孤独に体力を回復させるしかなくて。

 

スコッチ・シンフォニー(2013)©A.I Co.,Ltd.

 

 それは辛いね。でも、昔はきつければきつい程その分達成感もあって好きだったかも。
「シンデレラ」もそういう作品のひとつかもしれない。

 

渡辺 「シンデレラ」は本当に大変だと思った。袖にいる間もギリギリまで早替えしていて、幕が開いてから次に閉まるまで休む時間なんてなくてびっくりした!

 

 シンデレラのあとに他の作品を踊ると、「ポワント調整する時間がある!」って逆に驚くことも(笑)

 

 

レッスン以外での努力

 努力というわけではないけど、身体のメンテナンスのためにいつも診てもらってる先生のところに定期的に行っていたよ。

食事は、気をつけていた時期もあるけど、我慢してストレスを感じるのも嫌で、神経質には考えないようにしていたかな。

あとは、基本的にお風呂はシャワーだけなんだけど、本番前だけは身体のために湯舟に浸かるようにしていたこと。毎日入ったほうが良いんだけど、いつもやっていないからこそ効き目を実感できて好きだった(笑)

 

渡辺 そうなんだ!私は湯舟に毎日浸かってるよ。どうしても辛い時は、湯船で着圧タイツを履くと足の疲れが取れるからやったり。あとは毎日必ず体重を計っているよ。

 

 

スクール教師として

渡辺 SDBのスクールでクラス指導を担当するようになってお互いもう結構たつよね。ゆりえちゃんの指導は、クラスをサクサクと進めてるのかと思いきや、妥協せず追求して生徒に求め続けている印象がある。

 

 自分ではそんな厳しくないと思っているけど、目指すレベルに応じて要求することも変わってくるし、上を目指す子には「自分はできる」という自覚を持たせたいと思っていて。伝えたいことを生徒たちが分かるように説明することが難しくて、今の課題かな。

 

渡辺 私も指導していて難しいと思うのは言葉。例えば「開いて」って言うのは簡単だけど、「開く」という言葉のイメージをどう持つかで受け取り方も変わってくるから、やり方の違った方向への解釈にもなり兼ねない。イメージや理解に繋がる説明って生徒ひとりひとりで違うから難しいなって思う。

 

 恵美先生(注:小山恵美)は言葉が的確で、ニュアンスを捉えやすいように話してくれるからそれでパッと理解できたりする。細かい身体の説明も使い方を見せながら指導してくれたり、恵美先生みたいな指導は理想だと思う。

 

渡辺 うん、恵美先生すごいよね。バレエ団で自分が指導を受けるときは、パッとイメージに繋がって広がっていく説明をしてもらうことが多いし、スクールで生徒達へ指導する様子を見ていると、生徒達が恵美先生の注意の意味を理解していく様子がすごく分かる。

 

 自分の注意で生徒たちの視野を狭めないように気をつけなきゃと思う。

 

渡辺 うん。それから、私は生徒を誰よりも信じる先生でいたいな。どんな人も自信が揺らぐような出来事にぶつかることがあると思うけど、私はそういう時に、先生が私自身よりも私を信じてくれてたことがとてもありがたかったから。

 

 

さいごに、バレエダンサーを目指す卵たちへ

 

 大事なのは、ただ毎日レッスンするだけでなく、ちゃんと目的を持つこと。経験を積むといろんな先生に見てもらう機会が増えていくと思うけど、それぞれの先生の言葉はすぐにはわからなくてもいずれ肥やしになるから、心にひとつひとつ留めて日々のレッスンに励んでほしいな。

 

渡辺 私は今も自分に対しても思ってることだけど、自ら追求していけるダンサーを目指してほしいな。何歳になってもどんなにすごいダンサーにも指導者が必ずいて、バレエは学び続ける世界だけど、指導者に言われたことだけをこなすのではなく、もらった注意ひとつから、更に自分で掘り下げていける人になって欲しい。ゆりえちゃんの話したこともこれも、ダンサーに限らず社会でもとっても大切なことだと思う。

 

2017年3月公演にて

 

 


林ゆりえ、渡辺恭子も指導を担当しているスターダンサーズ・バレエスクールの詳細はこちらから
林ゆりえ担当クラス・・・A(土曜17:30~19:00)、B(土曜16:20~17:30)、C(土曜15:20~16:20)
渡辺恭子担当クラス・・・A(木曜19:00~20:30)、B(木曜17:45~19:00)※2018年8月~

各クラスの対象年齢等はこちらでご確認ください。

 

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