トゥシューズの加工やこだわり
女性ダンサーに欠かせないトゥシューズ。「ポワント」とも呼ばれるこのシューズ、ダンサーたちは自分の好みに合わせて加工しているのをご存知でしたか?今回のブログでは、ポワントにまつわるあれこれをご紹介します。
こちらのブログではポワントかがり縫いの方法を塩谷綾菜による実演でご紹介しています。
合わせてご覧ください。(2023年5月追記)
●ポワントのかがり縫い
多くのダンサーが行っているのは、「プラットフォーム」と呼ばれるつま先部分のかがり縫い。その目的、方法などをダンサー金子紗也にききました。
なぜかがり縫いが必要なのですか?
かがり縫いをすることで、①トゥ先の角が丸くつぶれてこない、②持ちがよくなる、③ジャンプの時の着地音などが軽減される、④トゥ先が安定する、などの利点があるからです。また、トゥは職人さんが手作業で作ったものなので、同じ種類でもひとつひとつ僅かに違うのですが、かがり縫いによってそれを補い、自分の理想に近づけることもできるんです。
かがり縫いの方法を教えてください。
用意するのは、ポワント、糸、針です。私が使っているのは、BLOCHセレナーデ、オリムパスエミーグランデ(色番810)、クロバースウェーデン刺しゅう針(先が曲がっているもの)です。糸の代わりに、履かなくなったバレエシューズの紐を使う人もいますね。
また、ゴムの指ぬきも必需品です。トゥはとても硬いので、これがないとなかなか針が通りません!
<手順>
1.プラットフォームの円周より少し長めに切った糸を8本束ねる
何本どりにするかは、分厚く縫いたいか細めに縫いたいかの好みによりますが、私は回転ものが多い踊りの時は6本どりにしてかがる幅を狭めに、バランス系が多い踊りの時は8本どりにして広めにかがるというように変えています。
2.束ねた糸を円周に沿わせて、糸を通した刺繍針(2本どり)で縫っていく
束ねた糸をプラットフォーム円周に沿わせたら、下から針を入れ、まっすぐ上から出します。このときの針を出す位置でかがり部分の幅(縦の長さ)が決まります。幅が狭いとかがる部分が丸くなりゴロゴロしてしまうので、5ミリから1センチほどにするのがおすすめです。
上から出した糸を、最初に針を通した下の穴の隣に刺しまた上から出すのですが、この時にできる輪っかの中に手前から針を通すので最後まで糸を引き抜かないように注意です。
輪っかに糸を通したら、糸をぎゅっときつく締めます。これをぐるっと1周するまで続けていきます。
玉結びをするとごろごろしてしまうので、糸は結ばずそのまま縫い始めます。縫い始めは糸を少し長めに出して指で押さえておいて、何目か縫った後に切ればほどけません。
3.縫い終わったら、終わりも玉止めせず適当なところに何度か糸を通して切って完成
かがり方にもいくつかあって、私は下から針を刺した後に手前から糸をひろっていますが、奥から糸をひろうやり方もあり、完成形の見え方に差が出てきます。
だいたいどれくらいの時間がかかるのですか?
片方をかがるのに、だいたい15分ほどはかかります。BLOCHのセレナーデはかなり針が通りやすい方なのですが、トゥの種類によっては針が入らないものもあります。
かがり縫いの際のポイントはありますか?
かがる際は、床と擦れて緩んでこないようになるべくぎゅっときつく締めていくのがコツです。
また、セレナーデはプラットフォームが楕円形で元々立ちやすい形なのですが、プラットフォームが小さめのトゥの場合は、円周を大きくとって広めにかがることでよりつま先を安定させることができます。それぞれの好みに合ったオリジナルの方法を見つけることが大事ですね!
続いて、かがり縫いの工夫やその他の加工について、愛用のポワントとトゥパッドと合わせてダンサーたちに聞いてみました。
◆金子紗也
ポワント:BLOCHセレナーデ
トゥパッド:チャコット フリーカットジェルトゥパッド
私の足は甲が真ん中にありトゥの下の方で曲がってしまうため、上の方で曲がるように新品の時に切れ目を入れます。
トゥパッドは自分に合った形に切って使うことができるものです。私は外反母趾がでているので、外反母趾を覆えるように端は長く、中心部はゴロゴロしないように丸くカットしています。
◆荒蒔礼子
ポワント:フリード(マークはQ)
トゥパッド:フリード
トゥ先のかがり縫いは、太めのたこ糸2本どりで一周縫い、前側はプラスもう二重縫っています。
柔らかくなってくると前側が潰れてくるので、補強のために新たにもう何重かかがり縫いをしてもたせています。また、瞬間接着剤を爪先とサイド部分に流して、固さを調節したりつぶれにくくしています。
新品をおろすときは、インソールの踵に刺さっている釘を抜き、ブロック部分を踏んで馴染みやすく、ソール部分は土踏まずの辺りを手でしらなせて、履きやすくしています。
フリードは一足一足が手作りで微妙に履き心地が違うので、特にトゥ先部分が安定しているトゥシューズを選ぶようにしています。
トゥパッドもフリードのあまり分厚過ぎないものを使用しています。
◆前田望友紀
ポワント:BLOCHヘリテージ
トゥパッド:なし
先をかがる時は、自分の立ち方を計算した上で、綺麗に見えるようにかがることを注意しています。ドゥミからポアントに立つ時の上がり下りがスムーズにいくように、上部分のみかがっています。
床を感じやすくするためにトゥパッドは使わず、親指と小指にクリアティップ(足の指先を保護するゲルタイプのトゥキャップ)を使用しています。痛い時は、間の指にも絆創膏を巻いています。
◆秋山和沙
ポワント:グリシコMAYA1、BLOCHセレナーデ
トゥパッド:Bunheadsアウチポーチジュニア
ポワントは、ソールが足に馴染みやすいように最初に土踏まずのところにカッターで切り込みを入れています。
グリシコは安定感がよい反面重いので、速い動きが多いときにはブロックのセレナーデを履いて使い分けています。
◆井後麻友美
ポワント:BLOCHヘリテージ、グリシコ2007 PRO
トゥパッド:SHANSHA コットンパット
トゥパッドは薄い方が好きなので、ストレッチコットンが2枚重ねになったタイプを使用しています。アンダーラップを指と指の間に挟んだり巻いたりして、指先を保護することもあります。
ポワントは、立った時に安定感を出すため、持ちを良くするため、トゥ先を凧糸で一周かがっています。
◆岩崎醇花
ポワント:ブロックのセレナーデ
トゥパッド:チャコットのジェルトゥパッド
トゥパッドは何種類も試しましたが、薄いと足先が痛くなってしまうので厚めのものを使用しています。
新品をおろすときは、ボックスの部分を柔らかくしすぎてしまうと外反母趾が痛くなってしまうので程よい柔らかさに馴染ませ、ソールの部分は釘を抜いて足裏に少しでも吸い付いてくるようにしています。
そして新品は必ず恵美先生のクラスでおろすと決めています!
◆橋本まゆり
ポワント:Bloch アクシオン
トゥパッド:ミルバ シリコンパッド
私は、足の人差し指が親指より1cm長いため、布製のトゥパッドだと人差し指の爪が変色してしまうくらい痛くなってしまって…。先だけ分厚くなっている薄めのシリコントゥパッドを使っています。
トゥシューズは、以前は細幅のものを使っていたのですが、立ったときの安定感を出すため、今はサイズを1つ下げて普通幅のものを使っています。
アクシオンはボックス周りの糊付けがしっかりされているポワントなので、足に馴染むようボックスに水をつけて、生地を柔らかくしてから履きます。
土踏まず部分のソールとドゥミは手で柔らかくしてから使います。
ダンサーたちのこだわりをご紹介しました!